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ドーピング禁止薬物と禁止方法

 

本来病気の治療や健康保持のために使われる薬物が,競技能力を向上させることを目的として使用されることをドーピングとよびます.近代スポーツの高度化と科学の発達にともない様々な薬物が乱用されるようになり,スポーツ選手の死亡事故も多数報告され,国際的な社会問題になっています.そこで,ドーピングによる健康の阻害,あるいは死に至るような事態から選手を守るために,オリンピックやその他の国際競技大会ではすでにドーピング・コントロール(禁止薬物検査)が実施されています.国際トライアスロン連合(ITU)主催の競技大会においても,すでにドーピング検査が行われています.

ドーピング規制を受ける薬物ならびに方法の分類は,以下のような国際オリンピック委員会(IOC)の「ドーピング指定薬物の分類及び方法のリスト」に従って行われています.

 

1.ドーピング指定薬物の分類及び方法のリスト(IOC, 1998)

1)ドーピング指定薬物の分類

A.興奮剤

B.麻薬性鎮痛剤

C.蛋白同化剤

D.利尿剤

E.ペプチド及び糖蛋白ホルモンとその同族体

2)ドーピング方法の分類

A.血液ドーピング

B.薬理学的,化学的,物理的方法

3)一定の規制の対象となる薬物の種類

A.アルコール

B.マリファナ(大麻)

C.局所麻酔剤

D.コルチコステロイド(副腎皮質ステロイド)

E.ベータ遮断剤

 

ドーピング規制を受ける薬物は,興奮剤,麻薬性鎮痛剤,蛋白同化剤,利尿剤,ペプチドホルモンと類似物質に分類されます.また,薬物ではありませんが血液ドーピング(自己または他人の血液,あるいは血液製剤を使用する)などの方法も禁止されています.また,薬物が検出されにくいように操作する方法が,薬理学的,化学的ならびに物理的不正操作として禁止事項にあげられています.その他,アルコール,大麻,局所麻酔薬,コルチコステロイド,ベータ遮断剤が一定の規制の対象となる薬物とされています.

 

2.ドーピング規制を受ける薬物の効果と副作用

1)興奮剤は,A.精神運動興奮薬,B.交感神経アミン系興奮薬,C.各種中枢神経興奮薬の三種類に分類されます.

A.精神運動興奮薬の代表としてアンフェタミンという薬があります.眠気と疲労感をなくし,闘争心を高め,集中力を高める作用があります.しかし,急性の中枢興奮作用としては不穏,めまい,震え,多弁,疲弊,不眠,発熱,多幸感があり,中枢興奮状態に続いて疲労と抑欝状態が現れます.長期間使用した場合には精神錯乱,攻撃性,性欲亢進,幻覚などが現れることがあります.心臓など循環器系への作用として,頭痛,動悸,不整脈,狭心痛,血圧の上昇あるいは下降,循環虚脱がみられ,脳出血や不整脈が原因となって死亡することもあります.アンフェタミンの副作用は使用量が少なくても見られることがあり,また,この薬物は依存性があるため薬物依存状態に陥ります.このアンフェタミンは我が国では覚醒剤取締法によって規制されています.

B.交感神経作動性アミン系興奮薬の代表としてはエフェドリンがあります.気管支筋弛緩,鼻粘膜血管収縮などの作用を有し,喘息,風邪,鼻炎などの治療に用いられます.アンフェタミンと類似した中枢興奮作用のほか,副作用として吐き気,嘔吐,発汗,神経過敏状態などがあります.エフェドリン類は,通常多くの風邪薬や鼻炎治療薬などに含まれており,また,生薬「麻黄」の成分であるため,風邪などに用いる葛根湯,鼻炎や気管支炎に用いる小青竜湯,神秘湯などの風邪薬や漢方薬を服用する際には注意が必要です.

C.各種中枢神経興奮薬にはカフェインなどが含まれます.これには中枢興奮作用,強心作用,横紋筋収縮作用があります.しかし,不安感,耳鳴り,手足の震え,筋肉が硬くなるなどの副作用があります.コーヒーを2〜3杯飲む程度なら通常問題にはなりませんが,カフェインを含む風邪薬や強壮ドリンクなどではドーピング違反になる可能性があります.

2)麻薬性鎮痛剤ではモルヒネ,コデインなどが代表的な薬物です.これらは多幸感や無敵感を選手に与え,運動中の苦痛を軽減する作用を持っています.連用すると依存性が現われ,中断により禁断症状も現われます.モルヒネは麻薬取締法により規制されていますが,鎮咳薬としての低用量のコデインは規制を受けません.

3)蛋白同化剤は筋肉増強作用を持つため,強い筋力を必要とする競技選手に対して有利に作用します.しかし,副作用として,男性では睾丸萎縮,女性化乳房,脱毛など,女性では月経異常,乳房萎縮,男性化などがあり,その他にも,めまい,吐気,頭痛,疲労,座瘡,発熱,精神異常などが見られます.また,長期間の使用により肝臓や腎臓の障害,動脈硬化,心血管障害が出現します.市販の強壮薬などに禁止薬物のメチルテストステロンが含まれることがあるので注意が必要です.

4)利尿剤は通常,心不全や高血圧の治療に用いられます.体重階級制の種目においては減量を容易にし,さらに,他の薬物をより速やかに尿中に排泄してドーピング検査時に薬物を検出しにくくすることを目的として使用されます.副作用としては,血中の電解質異常をきたし,不整脈を誘発したり,時に心停止を起こすこともあります.

5)ペプチド及び糖蛋白ホルモンとその同族体には,胎盤性性線刺激ホルモン,副腎皮質刺激ホルモン,成長ホルモン,エリスロポイエチンなどが含まれます.胎盤性性線刺激ホルモンならびに関連した作用を有するその他の合成物質を男性に投与し,内因性男性化ホルモンの産生量を増加させることは,蛋白同化ステロイドの投与と同等に見なされるため禁止されています.副腎皮質刺激ホルモンの投与も副腎皮質ホルモンの使用と同等に見なされます.また,成長ホルモンの濫用は,アレルギー反応,糖尿病の誘発,大量使用による末端肥大症など様々な影響が見られます.この他,血液の酸素運搬能の増加により持久力を増強させることを目的としたエリスロポイエチンによる血液ドーピングについてもヘマトクリット増加による塞栓症の発生や高血圧による障害などの副作用を防止するために投与は禁止されています.

6)血液ドーピングは,自己あるいは他人の血液,または血液製剤を使用して酸素運搬能力の増加による持久力向上を目的として行なわれます.この方法による副作用には,不適合輸血による腎臓障害,肝炎,エイズなどの感染症があります.また,この血液ドーピングには前述のエリスロポイエチン投与も含まれます.

7)薬理学的,化学的ならびに物理学的不正操作には,尿を他人のものと取り替えたり,尿中に禁止薬物が排泄されにくくする目的で,さらに別の薬物を使用することなどがあります.

8)一定の規制の対象となる薬物には,局所麻酔剤,コルチコステロイド,ベータ遮断剤などが含まれます.これらは,使用方法などに様々な制限が設けられています.競技大会に際し,医師の診断書による事前申告が必要な場合もあります.

 

3.ドーピング違反に対する罰則

a)ドーピング指定薬物ならびに禁止されている方法

●1回目の違反:2年間の競技出場停止

●2回目の違反:競技からの生涯追放

b)病気の治療目的にエフェドリン,フェニルプロパノールアミン,プソイド

エフェドリン,カフェイン,キニーネなどを服用し,陽性になった場合

●1回目の違反:最長3ケ月間の競技出場停止

●2回目の違反:2年間の競技出場停止

●3回目の違反:競技からの生涯追放

注意:禁止薬物の供給,投与,不正取引などのドーピング違 反

は,極めて重大な違反と見なされ,上記の罰則よりもさ

らに重い罰則が科されます.

注意:ある種目において違反した者に対して科せられた罰則

は,他のすべての種目にも適用されます.

 

ドーピング規制を受けない薬品リスト

 

症状または疾患別に,ドーピング規制を受けない代表的な薬品を分類しました.医療薬は医師の処方箋にもとづいて処方される薬品で,ここでは薬品の一般名を示しています.( )内はその代表的な商品名です.市販薬は薬局で自由に購入できる薬品です.また,右欄には代表的な禁止薬品/成分を記載しました.多くの感冒薬や栄養ドリンクには,これら禁止成分が含まれていますので注意が必要です.この薬品リストに掲載されていない薬品や,成分が不明な薬品については,医師または薬剤師に相談するか,日本トライアスロン連合メディカル委員会までFAXにてお問い合わせ下さい.(FAX:03-5469-5403)