長谷JTU技術・審判委員長より審判長報告  050908-1

長谷JTU技術・審判委員長・審判長報告
--------------------------------------------------------------------

第10回関東選手権大会報告 (小金澤光司:大会審判長、JTU2種審判)

開催日:2005年(平成18年)6月5日(日) 11:10〜

開催場所:埼玉県北川辺町 渡良瀬遊水池特設コース

参加者:女子 5名出場、 5名完走

     男子 32名出場、31名完走

今年で第10回となる関東選手権大会が、無事終了しました。大会準備や運営に
携わって下さった方々に心から御礼を申し上げます。以下に今回大会の審判長
報告を行います。


【報告内容】

1.過去からの経緯(見せる大会、コンパクトながら一流の大会)

2.今回の課題とその結果

3.今後の展望(地球に優しい大会等)


1.過去からの経緯

関東選手権は96年に伊豆大島で第1回大会が開催され、98年度の第3回大会からは
現在の渡良瀬遊水地に会場を移しました。本大会の開催意義は、下記の通りです。

(1)関東ブロックとして、日本選手権大会のブロック推薦選手を選考すること

(2)99年からドラフティング許可レースとし、トップを目指す選手へ競技力向
   上の場を提供すること

(3)先進的な競技運営方式を取り入れ、日本選手権大会等への適用を試行すること


遊水池という閉空間である事と、参加人数が併設する一般の部のレースを入れても
200人前後と比較的少人数でコントロールしやすい事、さらには、運営の主体である
埼玉県連合の方針が競技運営に対して前年踏襲とせず、常に革新的であることが幸
いして、競技内容は毎年進化を続けています。

@「見せる」大会づくりと、A「一流」の大会づくりの観点から、これまでの経緯
を振り返ってみます。


@見せる大会づくり : 人が見て楽しい、観客にアピールできる大会に変えてい
く事は、スポーツの健全な発展に不可欠です。本大会は第4回(99年)から、ドラ
フティングレースを採用していますが、これはJTU主催大会以外では初めてのこと
でした。トップ選手が集団となり、接戦を繰り返しながらレースを展開していく様
は、観客を釘付けにし、見せる大会作りに貢献したと思われます。
第5回(00年)からはスタート時刻を変更しました。それまではエージ選手向けの
「彩の国大会」を行う前早朝にドラフティングレースで実施していたものを応援者
が多いお昼の時間帯頃に移しました。また、男女別々のスタートにしています。
レースの実況中継もこの年からスタートしたと記憶しています。

さらに第8回(03年)からは、スイム(750m×2周)を周回毎に選手を一端上陸さ
せるコースレイアウトに変更しました。応援する選手の順位確認ができますし、
選手数のカウントが行え、安全管理上も都合よく、以降継続させています。


しかしながら、スイムスタートでは、選手権のレースとして、もう少しセレモニ
ー性があって、盛り上がりが必要だったこと、バイクでは周回コースでありながら、
先頭集団と後続の選手のタイム差が縮まっているのか、離れてきているのかを知る
術が観客、選手ともになかったこと、ランでは、コースは平坦部がメインで走力の
差がつきにくかったこと、また、本部周辺からは、そのコースの一部しか見通せな
かったこと等に改善の余地を残してきました。


A一流の大会づくり :ドラフティング許可大会になって救急車の出動回数が増え
たのでは本末転倒です。ドラフティングフリーレースでの幅寄せ、斜行、蛇行等の
危険行為に対しては、審判員が監視を怠りませんでした。
第6回(01年)からは、スイムタイム基準を25分未満に設定しました。選手のスイ
ムレベルを向上させると共に、バイクでの周回遅れDNFをできるだけ阻止するこ
とにもつながりました。
さらに第7回(03年)からは、買い物カゴをトランジッションエリアに配し、バイ
クからランへのトランジッションの際のシューズやヘルメットの紛失や散乱を防止
し、見栄えよく競技が進行するようにしています。



2.今回の課題とその結果

上記昨年までの経緯および反省点に鑑み、今年の第10回大会で新たに導入した改善策
や試行策の狙いと結果および今後の改善点をまとめます。

【受付】

関東選手権受付は9時に開始10時終了予定でしたが、殆どの選手が9時20分までに登録
を完了し出足は好調。その際、今年から採用したスイムスターティンググリッドの位
置決めドロー用の抽選を行いました。また、競技説明会への出席を義務付けました。
コース変更、ボーナスラップ制度やタイムギャップ制度の採用等、昨年度からの変更
内容が多く、選手に十分な理解を求めたかったからです。


【競技説明会】

10時からの競技説明会の実施場所は例年の東屋下から、スイムスタート地点の赤カー
ペット横で実施する事にしました。スイムスタート手順の説明やバイクでのボーナス
ラップ実施位置、ホイールストップや第二トランジッションの位置説明、およびタイ
ムギャップの表示場所等の説明を、できるだけ現場に近いところで行った方が選手の
理解が早いと判断したからです。来年以降も競技説明はスイムスタート位置で実施す
ればよいと思います。

説明会の最後に、受付時に決めたスイムスタートドロー順番に基づき、スタート位
置決めをしました。ドローは本大会では初めての試みであった事と、私小金澤も初
体験であったため、進行をもたつかせてしまいました。ドロー後の方の選手が、ど
の位置が空いているのかすぐわかるチェックシートになっていなかった事と、一人
当りの時間割り当てを決めていなかった事がもたつきの原因だと思います。来年度
は、スムーズな流れになるよう、チェックシートを色ペンで塗りつぶすといった工
夫をするとともに、時間配分に留意したいと思います。

その他、バイク終了時のバイクおよびヘルメットの投げつけ行為は失格対象とアナ
ウンスしました。ここ年々バイク終了時の選手の行動が、乱暴かつ品性に欠けてき
たことに対する警鐘です。フリーラック方式とはいえ、選手権の選手には理性と係
員に対する思いやりの心遣いを求めたいと考えます。選手からは反論や疑問の声は
なく、納得頂けたと解釈しました。


【スイム】

10時現在の水温22℃、気温25℃、天候曇り。スイムスタート地点水面に浮遊物(い
わゆるアオコ)が直径約10mほど漂っており、急遽ジェットスクーターで除去(拡
散)願いました。

今回は長さ約25m、幅1mの赤カーペットをスイムスタートグリッドにし、下宮
橋交差点の岸壁の斜面に設置しました。水面からカーペット端部までの距離は約50
cm。横幅は1人あたり60cmとし、それぞれに名刺大のナンバープレートを明示し
ました。

スタート10分前にウオーミングアップを完了させました。 今回は、選手一人一人
をコールしながら、スタート位置につかせるのか、スタート位置の端から順番に並
ばせるのか、それともドロー順に並ばせるのかを事前に明確に決めておらず、本番
での混乱を招いてしまいました。今回のように選手が30人程度であれば、1人5、6秒
づつかけて全員コールして並んでもらっても良いかと考えています。ジャパンカッ
プや世界選手権での事例研究を積みたいと思います。

全員の整列を確認後、女子は11:10、また、男子は12;30の定刻にスタートさせ
ました。男子スタート時、何故かホーンが作動せず、急遽ホイッスルで対応しまし
た。(後でホーンのバルブが緩んでいただけであることが判明。)

今回の赤カーペットによるスタートグリッドは、見栄えもよく、レース前の良い
緊張感をかもし出す効果が十分にありました。課題としては、まず、風の強い悪天
候時には、カーペットの位置決めに不安が残ります。岸壁との固定はガムテープだ
けではなく、4辺コーナー部に穴をあけ、ヒモでアンカー固定すれば、カーペット
が飛ばされたりめくれ上がったりせず安定するでしょう。また、斜面からの飛び込
みなので、水中での手や顔の壁面接触も危惧しました。選手権選手なので、その点
は考慮して、少し遠方へ飛び込んではいましたが、事故発生の懸念は残ります。

製作、運搬および保管の費用などをを熟慮すべきですが、ポンツーンからのスタ
ートであればさらに美しいスイムスタートが演じられると思います。今年の彩の国
大会の参加者は最大でAタイプの59名でした。選手権のみならず、一般トライア
スリートにも、ポンツーンスタートの経験を提供できるのではないでしょうか?


【バイク】

今回は、ギャップタイム表示とボーナスラップ制度を全国で初めて採用しました。

ギャップタイム表示とは、周回毎に先頭選手からの時間差を表示するものです。
ボーナスラップとは周回コース上の定点を先頭で通過した選手に特典(強化費)
を与えるものです。

まず、ギャップタイム表示について。その主旨は、選手が試合中最も気になる
「前何分、後ろ何分地点に先頭が居るか」に答え、また、応援者にも自分がヒイ
キの選手がトップに迫っているのか差をあけられているのかを伝え、見せる大会
づくりに貢献するものです。

課題は2つ。@先頭集団と第二集団の時間差情報をどう先頭に伝えるか、A先頭
集団との時間差をそれ以降の集団にどう伝えるかです。Aに関しては、先頭通過時
にタイムギャップ表示のデジタル時計をリセットすればOKです。@に関しては理想
的には先頭がタイムギャップ表示時計を通過する直前に後続集団のバイクに設置さ
れた発信機の信号を受信し、その速度と距離情報から時間差を即座に推定表示する
システムが考えられますが、現存しません。

今回は、マニュアルでどこまで対応できるかが知恵の絞りどころでした。本部近く
(タイムギャップ表示時計掲示場所)から約1キロ手前の中ノ島で先頭と第二集団
との時間差を計測し、それを先導オートバイのマーシャルが移動表示する、という
案もありましたが、安全性と公平性の観点から見送られました。

結局中ノ島の時間差情報を無線でギャップ表示時計の係員に伝え、600×450の黒ボ
ード上に黄色のマグネットで数字表示しました。手作業です。先頭集団にはこの黒
ボード、後続選手には1000×300の大型デジタル時計でタイム差情報を提示しました。
場所は大会本部から50m南の下宮橋交差点南側で本部前コーナの立ち上り部分です。
大型デジタル時計はコースを跨ぐゲート上に吊るし黒ボードはその横で係員が手で
掲示しました。黒ボードの数字並び替えが間に合わない場合は、拡声器を用いて
「後ろ何分何秒」とアナウンスすることにしました。

大会当日は、ほぼ、想定通りの進行ができたと思います。特に大型デジタル時計の
ギャップ表示に対して、本部周辺に居た応援者の評価が高く、「仲間の選手が前を
詰めているのがわかって、エキサイトした。レースの動きがわかるので応援が楽し
かった。」等の声を数多く聞きました。見せる大会づくりには確実に効果があった
と思われます。

選手の行動についてですが、第2集団以降の後続選手はギャップ表示の時計手前で
ちらっと視線を上げ、タイム確認をしているのがわかりましたが、先頭集団に対し
てはどうであったかの確認が取れていません。競技説明会では黒ボードのことも説
明しましたが、良く見えたか等を追って確認したいと思います。

今回のギャップ表示法では、定点計測員が先頭と第二集団の距離を勘案して、計測
位置Bを前後させる必要があります。すなわち観測距離A(計測位置B-掲示位置C)>
選手距離D(先頭集団位置E-第二集団位置F)を保つ必要がありますが、余りにもAが
大きいと情報精度が落ちてしまいます。途中、先頭と第二集団の差が大きくなり、
黒ボードの準備が間に合わないことが予想されたので(計算上は1分20秒が許容限度)
計測位置を後退させました。しかし、無線が届かなくなりました。

ハイテクに頼らずこれを改善する方法の1つとして、コース一部に折り返し部をつ
くる方法があります。彩の国大会のコース設定に近づきますが、計測員の移動距離
は少なくてすみますし、本部から離れずに計測の距離をかせぐ事も可能です。最悪
の場合計測ができなくても、選手は選手同士のすれ違いの位置変化で、先頭集団は
後続との差を確認できます。最適な折り返し距離は、当面実績データを取る必要が
あるでしょう。掲示方法にも改善の余地がありそうですので、関東選手権に留まる
ことはなく日本選手権や海外大会も視野に入れギャップ表示法の改善を進めたいと
思います。

次にボーナスラップ制度です。主旨はバイク集団に競い合いの動きをつくることで
した。周回数6周の内、3,4,5周終了時に定点(中ノ島)をトップ通過した選手を
記録し、表彰しました。接触事故等はありませんでしたが、トップ通過選手の番号
が読み取れないという不備が生じました。40km近い速度で向かってくる集団に対
し、トップ選手を見極めること、又それは何番かを瞬時に目視判定する事をビデオ
を撮りながら実施したわけですが、今回のやり方には少し無理があったようです。
選手は全員チップセンサーをつけていたのですから、定点での通過時間を自動記録
することは技術的には可能です。また、折角競い合いのステージを設けたのですか
ら、できれば応援者の多い本部近くでの実施が望まれます。来年度は、記録の自動
化と場所の見直しを実施したいと考えます。

他の改善点として、オリンピックや世界選手権では一般化しつつあるホイールスト
ップを本部近くの交差点に設置しました。男子は4〜5名がホイルを預けましたが、
実際に交換した選手はいませんでした。また、スタート時間を女子11:10、男子を
12:30とし、昨年まで問題であった男女のバイクの交錯は避けることができました。
しかしそれでも間一発のタイミングでした。あと10分程度の余裕が必要です。


【ラン】

土手への上り下りの回数を増やし、従来は高低差延べ30mの上り下りを、延べ80m
の上り下りにしました。昨年までは殆ど平坦なコースでしたが、変化にとんだ、ラ
ンニングの実力差が出やすいコースへと進化させています。また、土手上を走る選
手の姿が本部近くから確認でき、応援者への見せる配慮にも貢献したものと考えて
います。

バイク先頭が15人以上の集団でフィニッシュし、そのままラン第一エイドに向かい
ました。先頭集団の情報が第一エイドに伝達されておらず、選手の給水に追いつか
ない不具合が発生しました。バイク先頭の情報を第一エイドに知らせる仕組み
(伝達係の配置、無線)を来年度は取り入れたいと思います。


【トランジッション】

 今年は、第一トランジッションエリア(スイム→バイク着替え)と第二トラ
ンジッションエリア(バイク→ラン着替え)およびバイクフリーラックを完全に
分離して配置しました。それにより極めてスムーズな流れができました。また、
幅1mの赤カーペットをバイク降車ラインとして使用したため、遠方からの現認
が容易かつ必要なタイミングにさっと敷くことができ好都合でした。来年以降も
継続使用したいと思います。



3.今後の展望

上記のように関東選手権大会では、「見せる大会」および「一流大会」を目指し、
ギャップタイム制や、ボーナスラップタイム制の導入にトライしてきました。単
に本大会だけの改善、進化に留まるのではなく、日本選手権やアジア、世界選手
権、オリンピックも視野に入れた情報発信大会に育て上げて生きたいと考えてい
ます。


さて、昨今環境問題が取上げられ、我々スポーツに携わるものも無関心ではいら
れない状況になっています。元来トライアスロンは、自然と戯れる、自然に親し
む競技として生まれたのではないでしょうか。海や湖の恵みを肌で感じ、風を切
って長距離を疾走する喜びをペダルで感じ、大地を足で感じる。地球に優しいス
ポーツであったはずです。

本大会は、今年から「大会ゴミ、ゼロ化」を掲げた啓蒙運動を開始しましたが、
これは非常に意味深いと思います。通常の大会ではエイドでの紙コップや弁当箱
を捨ててしまうことが当たり前です。本大会では、捨てずにリサイクルを行うた
め、後処理に多大な労力と費用を費やし始めました。本大会の課題の3つ目とし
て、ゴミを出さない、地球に優しい大会づくりの観点でも広く情報を発信できれ
ばと思います。まずはコップの材質見直しでしょうか?今回は使用後の紙コップ
を捨てずに費用を支払って専門業者に委託しリサイクルしてもらいましたが、今
後コップをPET製にすれば、リユースもできます。大会本部脇に分別回収場が設
けられていましたが、最終的に廃棄される物の重さを毎年量るのがよいと思いま
す。資源のリサイクルと、ゴミの持ち帰りが進んだ証として、会場での排出ゴミ
重量がいつかはゼロになる事を期待します。


さらには、選手にも環境に対する意識の向上を求めたいものです。
「トライアスロンは高い参加費を払っているのだから、好きな所で飲み、好き
な所でゴミを捨てても良い」という誤った考えが、残念ながらいまだに存在し
ています。それを完全に払拭したいものです。そのためには、まず模範となる
べき選手権のエリート選手達の行動が大切です。決められた場所以外にゴミを
捨てた場合は失格対象になるのは当然ですが、競技終了後は、積極的にコース
上やその周辺部の清掃に協力する行動があってもしかるべきかと考えます。例
えば、フィニッシュ後の選手にコース上のゴミを拾ってくるのをバイク引き換
えの条件とする、等は すぐにできることです。これらの行動は、トライアス
ロンでは当たり前のこととして定着させることができると思います。一流選手
の一流の競技、パフォーマンスを世界に発信すると同時に、地球環境に対する
トライアスロンの取り組み方もアピールしていきたいものです。


【謝辞】

大きな事故やトラブルもなく、記念すべき第10回大会が無事終了しました。
埼玉県連合を中心とする経験豊か且つ前向きなスタッフやボランティアの方々
に支えられ、何とか審判長の大役を勤めさせていただき心から御礼を申し上げ
ます。コンパクトながら常にチャレンジングな本大会をさらに進化させること
に今後も微力ながら協力させて頂きたいと思います。

=以上=