堀 陽子 選手リポート(アイアンマン・ウィスコンシン)
今シーズン、3月のアイアンマンNZ、5月のアイアンマン・ジャパンと2レースを消化 して得られた結果に、自分自身満足のいくものがなく、また、最大目標であるハワイ アイアンマンでの出場も逃し、気持ちを切り換え今年最後の締めくくりとして9月の アイアンマン・ウィスコンシンに出場を決めました。一つずつ失敗してきたことの原 因を探り出し、繰り返さないように細心の注意を払い、そして今何をしなければなら ないか、どういう精神状態で毎日を過ごしレースに臨むべきか、日々思いどうりにい かない自分をコントロールするのに苦闘しましたが、自分を信じてレースに臨む気持 ちを忘れないよう務めてきました。
今回のレースに出場するにあたって、トレーニングが順調にできたとは言えませんが、 体調を万全に整え、ポジティブな気持ちでレースの日を迎えることができました。こ のレースの出場にあたり、開催地であるマディソンのトライアスロンチーム「ヘッド ハンターズ」のリーダー、ディノ・ルーカス氏のお宅でホームステイさせてもらいま したが、彼をはじめたくさんの仲間の人たちと出会い、そしてサポートをしていただ き、とても有意義な日々を過ごさせてもらいました。それに、ディノの奥さん、クリ スティンは初めてのアイアンマン出場で、滞在中にはお互いに助け合うことが多く、 この短い期間の中で、地元の人たちとの絆を深めることができました。こうして、 2000人を越す、アメリカの大きなレースに出場できる楽しみと、みんなへの感謝の気 持ちを持ち、落ち着いた気持ちでスタートラインに立つことができたのです。
マディソンの街のこの時期の気候は、22〜23℃が平均であり比較的涼しいのですが、 今回レースの日に合わせて急激に気温が上昇し、レース日の最高気温は35℃にまで達 しました。しかも、風があり、非常にタフなコンディションになりました。スタートラインに並 んだ選手は2076人。そのうちプロは男31、女18人の計49人。男子選手では2連覇中の ディブ・ハルジュ(カナダ)、クリストフ・モゥ(スイス)、ピーター・パブロゥスク(チェコ)、 女子はウテ・ミューケル(ドイツ)、地元のローレン・ジェンセン、ヘザー・ヘブリンなど他、 たくさんの強豪選手が揃いました。 スイムは、マデイソンの街中心にある、レイク・モノナにて2ラップ3.9Kmのコース。見た 目には穏やかそうに見えた水面は、実際には風の影響で少し波があり、全体的に遅いタ イムのようでした。それでも、スイムを得意とする選手は大幅に遅れることなく、ここで差 がついてしまいました。女子のトップは、アメリカのリンダ・ガロ。全体でも2位で上がる驚 異的な速さでトップにてバイクにとび出ました。ウテ・ミューケルでさえリンダに約3分もの 差をつけられましたが、ハワイで上位を連ねていた彼女の力は、バイクに入るとすぐに 現れトップにたちました。私はそれに遅れること13分で、ヘザー・ハビランドとほぼ同時に スイムアップ。ここのユニークなトランジッションである、モノナテラスという建物の3階まで らせん状のスロープを走って上がる長いトランジッションを、私はリズミカルに走りつなぎ、 バイクに飛び乗ることができました。
バイクも2ラップの、平坦がほとんどない小刻みなアップダウンが続く180kmコースでしたが、風でなかなか進まず、気温の上昇と繰り返すアップダウンの連続で、想像以上に選手の脚は消耗され、バイクで200人以上の選手がリタイアを余儀なくされました。私は、前半 でかなり追い上げトップ10の位置につきましたが、120Km地点で地元のヘザーに追いつ かれ、徐々に差を開かれてしまい、9位でバイクフィニッシュ。7、8位の選手とはほぼ同時 にフィニッシュだったので、ほとんど揃ってランスタートしました。
走り始めの感覚は悪くなくこれからもっと追い上げる自信がありました。1人の選手はす ぐに歩き出し、もう一人もかなり辛そうで、すぐに2人をパスしました。しかし、いつものよう に段々とペースを上げることが難しく、次第に脚の筋肉が硬直し出してきました。どうした のか、これほど脚の筋肉に変調がくるのは、何レース振りか。しかも、かなり暑くなり、動 けない苦しさと暑さとの戦いで、走り続けることが精一杯になってきました。止まったら、 もう脚の筋肉が完全に機能しなくなりそうで、とにかく止まらずに走り続けました。2ラップ のランコース上で、1ラップ目で戻ってくる上位の選手とすれ違うと、自分だけではなく、 みんなかなりきつそうでした。そして、時間が経つに連れほとんどの選手が歩いている光 景が広がってきました。プロの選手でさえ歩き、脱落していく選手がいる中で、本当のサ バイバルレースになりました。自分に集中して、とにかく走るのみ。しかし、トップのウテは 余裕の表情で走っている。それに、2ラップを過ぎてから、チェコのガブリエラが軽快に抜 いていき1つ順位を落とした。そして、前に2人の選手が近づいているものの、なかなか 追いつかず、そのうちの1人は昨年のドイツのレースにおいてランで追い抜いている選手 だったので、絶対に抜けるとそれを頼りにしながら走るのですが、なかなか差が縮まりま せでした。そういしているうちに、27km地点でもう一人のフィンランドの選手をやっと捕らえ 順位を上げますが、結局は抜きたかったカナダのマリーを見えながら逃し、10時間41分、 総合44位、女子6位でゴールしました。
とにかく、暑く、厳しいレースでした。翌日のパーティーでは、アイアンマン史上初の 最低完走率、80.3%と発表。200人以上の選手が病院に運ばれる、異例のレースだったと 伝えられました。それでも、翌日の来年開催の申込みには、朝の9時からすでに長い列が でき、受付開始から7時間で締め切られました。話に聞いていた、アメリカのアイアンマ ン人気の凄さを目の当たりにしました。そして、大会運営やボランティアの方々の仕事 に対する責任感も、非常に強く感じました。選手側の立場にたち、選手が良い状態でレ ースをできる事、そして選手が何を望んでいるかなどを全ての人が理解しており、迅速 にかつ丁寧に対応している姿には、一人一人がアイアンマンという競技に本当に興味を 持っているのだと感じました。本当に素晴らしい大会でした。またアメリカ本土でのア イアンマンレースにぜひ参加をしてみたいと思います。
今シーズン最後のレースとして参加したアイアンマン・ウィスコンシンでは、掲げてい た目標の3位以内は達成できず、また、来年のハワイ出場の権利も獲得できず、今年は プロとしての厳しさを感じさせられる一年になってしまいました。ただ、この一年で、 失敗した事から学んだものは数多くあるので、この先は、それを生かせる自分である ように務めます。また、少なくともハワイでのトップ10を狙うには、アジア圏外での アイアンマンレースでの上位は必要だと考えますので、来年は、今年達成できなかった 目標が達成できるように力を付けていきます。
この後、しばらく休んだ後、こちらではこれからシーズンに入るので、いくつかレー スに参戦していきます。 そして、来年のアイアンマンにつきましては、これから予定をたてまたご報告いた します。
日頃、多くのサポートと、ご指導をいただき、本当に有難うございます。 今後とも、引き続きご配慮いただけるよう、どうぞよろしくお願い致します。
2005年9月25日 プロトライアスリート 堀 陽子
======================================================================== リザルト Swim Bike Run Total 1.Ute Mueckel(GER) 50:52 5:30:28 3:43:20 10:11:22 2.Lauren Jensen(USA) 54:30 5:38:31 3:37:45 10:18:30 3.Heather Haviland(USA) 1:01:50 5:34:20 3:40:10 10:24:21 4.Gabriela Loskotova(CZE) 56:09 5:55:23 3:29:31 10:34:04 5.Marie Danais(CAN) 53:13 5:40:22 3:58:02 10:39:34 6.Yoko Hori(JPN) 1:01:44 5:38:11 3:53:39 10:41:17 7.Terra Castro(USA) 59:00 5:42:17 4:03:42 10:53:03 8.Tina Boman(FIN) 56:13 5:33:57 4:19:29 11:00:13 9.Christine Waitz(GER) 1:01:35 5:59:25 3:56:17 11:04:40 10.Linda Gallo(USA) 48:41 5:59:34 4:09:56 11:06:33

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