International Triathlon Union

コーチ用)ドラフティング指導手引き「集団走行に対応するための練習方法」

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1、まえがき 
集団走行における注意点については先に伝えた通りです。実際の練習に取り組む前にしっかりと頭で理解しておくことが必要です。自転車競技の中で「常識」とされているルールを知ると共に、それを実行できるよう練習をしてゆくことが大切です。実際の自転車レースに出場することが最も近道ですが、下記練習方法を取り入れることで自転車レースに近い集団走行やルールを学ぶことができます。指導者の下、安全な場所を選び、注意しながら取り組んで下さい。参加人数にもよりますが90分程度を見込むと良いでしょう。

2、個人練習に取り入れるべき技術練習
A)真っ直ぐ走ること
・平地だけでなく登坂、下り坂においても真っ直ぐ走ることを意識する。
・一般道路を走る際に、路側帯を区分する白線の上を走ってみる。
【ポイント】
・上半身がリラックスしているか。
・ハンドルを軽く握り、段差や障害物にも対応できているか。
・視線がしっかり前を向いているか。10~20m先を見る。
【練習方法】
・まずは自分が「真っ直ぐに走る」という意識をもって走って下さい。
・走る先に、ペットボトルなどを2つ並べ、その間をスムースに走り抜けるようにします。(図1:以下、図解は今後の予定)

B)急ブレーキをかけてみる
・前後のブレーキを同時にかけることが基本です。
・ブレーキの特性を知るために「前ブレーキのみ」「後ブレーキのみ」で止まることも体感しておく必要があります。
【ポイント】
・ブレーキを掛ける力加減を知る。
・自分の体が安定してBIKEに乗っているかを体感する。
【練習方法】
・時速20-25㎞/hからフルブレーキ(前後両方)を掛け停止する練習する。最短距離で止まることを目標とする。
・前ブレーキだけを掛けて止まってみる。前転しないよう体(重心位置)をBIKE後方にずらす。
・後ブレーキだけを掛けて止まってみる。後車輪がロック(固定)されてしまい、タイヤが滑ってしまわないように力の入れ方を研究する。

C)片手操作および声出し走行練習
・給水所でボトルを受け取るためには片手操作ができることが必要。
・危険回避のため走りながら大きな声を出す必要が生じる。
【ポイント】
・片手操作ができるか。
・上級編としてハンドルから両手を話して走行することができるか。
・走行しながら声を出すことができるか。
【練習方法】
・片手操作は危険が伴うため指導者がいる場所で実施する。
・長時間ではなく、1秒間だけ片手を話すことがスタート。
・走行することに意識を向けながら歌を唄ってみる。

D)コーナーリング練習
・カーブを安全に安定して曲がれるようにする。
・曲がっている途中で余分な動きをしない。
【ポイント】
・スローイン、ファストアウト(ゆっくり曲がり始めて素早く抜ける)を基本として覚えておく。
・自転車は傾けるが自分の頭は地面と垂直に姿勢を保つ。
・正面から見た場合、自分の体と自転車が1直線になるようにする。
【練習方法】
・最初はゆっくりと大きく曲がることを意識する。
・しっかりブレーキを掛け減速する。それから曲がり始め、曲がり終わると同時に加速する。一つ一つの動作を確認しながら実行する。
・進みたい方向に視線を向けることを意識させる。
・体とBIKEが同じ姿勢で動くことを意識する。
・ボトルを3~5m間隔で並べて8の字を描くように走行する。(図2)

E)転倒時の安全姿勢確保(図3)
・できれば避けたい転倒事故であるが基本的な安全な姿勢を覚えておく。
・頭部へのダメージを避けることが最も重要であることを覚えておく。
【ポイント】
・頭部へのダメージを避けることができているか。
・擦過傷はやむを得ない、BIKE破損もやむを得ない、体を守ることが最優先であることを周知させる。
【練習方法】(室内で実施)
・BIKEに乗った姿勢から、ベッドや布団(マット)の上で倒れてみる。
・顎を引き、肩で頭部を守るように小さくなって転がる。
・ハンドルを離さないことを意識。ハンドルは握ったまま転ぶ。
・前転(でんぐりがえし)をして、そのときも頭を打たないようにする。
・頭部と顔面が地面(布団、マット等)に触れないように何回も試みる。

3、集団練習で実施すべき技術練習 
・集団で走ることに慣れること、走行ルールを知ることが必要です。一人で走る場合との精神的な違いも含めて体感してもらいます。4人以上(スタッフ含む)で実施することが望ましい。

F)他の選手と横に並んで走ってみる。
・横の選手とペースを合わせて走れるか。
・横の選手に安心感を与えられるような走り方ができているか。
【ポイント】
・真っ直ぐに走ることができているか。
・他の選手を観察しながら走れているか。
【練習方法】
・右側に選手がいる状態で1㎞ぐらい走ってみる(時速20-25㎞/h程度)。
・左側に選手がいる状態で1㎞ぐらい走ってみる(時速20-25㎞/h程度)。
・左右に選手がいる状態で1㎞ぐらい走ってみる(時速20-25㎞/h程度)

G)他の選手が前後にいる状態で走ってみる。
・前の選手のペースに合わせて走れるか。
・後ろに選手がいることを意識して安全な走り方ができているか。
【ポイント】
・真っ直ぐに走ることができているか。
・同じスピードで走り続けることができているか。
【練習方法】
・当該選手の前と後ろに選手がいる状態で走り続ける(1㎞を時速20-25㎞/h程度で)。
・前を走る選手は同じスピードで走り続ける。これも練習となる。
・真ん中の選手は、後ろの選手に怖がられないような走りをする。
・最後尾を走っている選手が、同じスピードで走っていたと感じられるようにする。1回終了するごとに確認をする。

H)合図を出す・練習においては左折、右折、減速のたびに合図を出す。
・その瞬間、片手操作をする、もしくは大きな声を出す必要がある。
【ポイント】
・周囲の状況に目配りができているか。
・走行中に安定した状態のまま「片手操作」や「大きな声」を出すことができるか。
【練習方法】
・前後または左右に選手がいる状況で合図を出してみる。
・スピードが上がったり下がったりしないようにする。
・左右にふらつかないようにする。
・手が離せない場合は、声で代用できるので、片手操作ができない選手には、声を出す指導を積極的に実施する。
・発声は、先頭の選手の声が、最後尾4番手以降の選手にはっきり聞こえるぐらい大きな声を出す。
・上級者は手の合図と声の合図の両方を実施できるようにする。が合図しないで、スピードが落ちると、後ろを走る選手がぶつかって落車してしまう危険がある。

I)一定の速度で走る(一定のリズムで走る)(時速20-25㎞/h程度)
・レースで速く走るためには最も重要なテクニックである。
・安全かつ重要な事項で、上級者ほど上手にできていることを周知させる。
【ポイント】
・スピードメーターを使用しない。
・自分の体で感覚を覚えさせる。
・前の選手との間隔を1m以内(50㎝が理想)で走ってみる。
・風向きが変わればスピードも変わる。その場合は「一定のリズムを保つ」ことを優先させる。
・追い風、向かい風でギアを変えることは良好である。
【練習方法】
・4人以上で縦に並んで走ってみる。
・1分間同じスピードで走ったら、先頭選手は交代。(時速20-25㎞/h程度)
・交代する際も、先頭選手は交代してからスピードを落とす。
・全員が同じスピード(同じリズム感)で走り切ることを目標として取り組む。
・前走者との車間が1m以内なので、スピードが変わると後続者はすぐに体感できる。その都度、指摘をして、スピードを維持させる。
・下記I)の先頭交代練習と別に実施する方が安全。

J)先頭交代練習・速いスピードを保ち、走り続ける基本的な技術である。
・相手を思い遣る気持ちがないと上手にはできない。
【ポイント】(図5)
・同じスピード(リズム)で走る続けること。
・交代して先頭に出ようとする選手は、絶対にスピードを上げない。
・後ろの選手に恐怖感を与えるような走り方はしない。
・先頭を交代して後ろに下がる選手はスピードを落とす。
・前の選手との間隔を1m以内(50㎝が理想)で走ってみる。
【練習方法】
・4人で縦に並んで走る。(時速25-30㎞/h)
・先頭を走る選手は、交代する5秒前に合図を出す(動きまたは声)
・合図を出してから、横に移動する。まだスピードは落とさない。
・先頭選手は横にずれた後に、スピードを落とす。
・2番手の選手が先頭になったとき、スピードを上げてはならない。
・選手間の車両間隔が短いので非常に危険な状況であることを理解させる。その上で、他の選手が「怖くない」ように走ることを各選手が心掛けるよう指導する。

以上が集団走行の基本的な練習となります。同じグループで走る選手は仲間です。たとえレース中であっても「逃げる仲間」「追いかける仲間」となります。その仲間が安心して走れるようにすることが速く走ることにつながってゆくのです。SWIMやRUNと異なり「集団の力」という個人だけの実力以外のものが作用する種目がBIKEです。特性をしっかりと理解し、技術を磨いて競技に参加させて下さい。

以上)JTU強化チーム(文責:委員 中山俊行)

参考)日本U15トライアスロン選手権(13-15歳)(岐阜県長良川2013/7/28)
ドラフティング許可適用と事前講習会(案内配信:2013年5月24日)
https://www.jtu.or.jp/news/2013/05/24/32180/

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